2011/09/29

知財マネジメントは企業経営の要

サムスンとMSが特許クロスライセンス契約―グーグルに打撃
(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 | 2011年9月29日 10:10 JST)
  ソフトウエア大手の米マイクロソフト(MS)と韓国のサムスン電子は28日、特許のクロスライセンス契約を締結した。これは多機能携帯電話(スマートフォン)やタブレット型パソコンのメーカーに無償でソフトウエアを供給するインターネット検索大手の米グーグルの戦略に打撃となる。・・・

サムスン、対アップル攻勢に転換 スマホ訴訟泥沼化
(日本経済新聞 | 2011/9/26 22:02 (2011/9/27 1:22更新))
  韓国のサムスン電子と米アップルとの間で、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)などの知的財産を巡る訴訟が泥沼化してきた。サムスンはオランダでアップルの既存製品の販売禁止を求め、影響の大きな次期製品「iPhone(アイフォーン)5」でも販売中止の仮処分申請を検討するなど攻撃姿勢に転換。対立は落としどころが見えなくなっている。・・・ 

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  このところ特許をはじめとする知的財産に関するニュース、とりわけ数少ない成長分野のひとつであるスマートフォンをめぐる知的財産についての話題が注目を集めています。
 知的財産というと、どうしても訴訟などの法的な事象が大きくクローズアップされがちで、我々も特許権や著作権などと言われると法律の専門家の領域のように捉えてしまいがちですが、これらのニュースは、今日の企業経営における知的財産の重要性がいかに大きいものかを物語っていると思います。

参考文献:「インビジブル・エッジ その知財が勝敗を分ける」(マーク・ブラキシル、ラルフ・エッカート 著 | 文藝春秋)

同書に取り上げられている事例企業として、
  ・クアルコム: 基本的に自らは製品を持たず、知的財産を次々と生み出すことを目的とする知財専業企業
  ・P&G: 自社開発のこだわりを捨て、オープン・イノベーションに軸足を移すとともに、主要技術を社外に依存する新製品を続々と開発
  ・ジレット: いわゆる「カミソリの刃モデル」(=カミソリ本体を低価格に設定して替え刃を高くして利益を上げる)として取り上げられることが多いが、実際には「すぐれた技術を開発し、それを保護した」という知財保護の重要性が見落とされている
  ・トヨタ: 知的財産の「ケイレツ化」(コラボレーション戦略)
・・・などが挙げられており、最終章ではいま最も注目される企業のひとつであるフェイスブックについて、同社がいかに周到に知財マネジメントを実践しているかが説明されています。

  また同書では、会社を「事業の集合体」ではなく「特許の集合体」として眺めることや、知財ネットワークを図式化することの重要性についても述べられています。

  スマートフォン分野だけではなく、その他の電機製品や半導体、自動車など多くの業種・業界において、企業間での提携関係が国内外を問わず非常に複雑になっている事実がみられます。
これらは各社の知的財産の保有関係が少なからず影響しているものと思われますし、今後も各社の知財マネジメントに基づくM&Aや業務提携などが様々な業界で繰り広げられていくものと思われます。

2011/03/18

IFRSの話: NSGグループの早期適用

 2012年3月期よりIFRSを適用することを既に発表していた日本板硝子(NSG)グループですが、この度、IFRS適用のタイムテーブルおよび貸借対照表・損益計算書における主要な調整項目の解説などを公表しました。

公表資料「国際会計基準(IFRS)の2011年4月からの適用について」(2011年2月25日)

 公表されている貸借対照表・損益計算書はそれぞれ、IFRS移行日となる2010/4/1時点(=2010年3月期末)の開始貸借対照表で、2011年3月期の予想損益計算書となっています。
 これらについて、日本基準からIFRSへの主要な調整項目および金額が、それぞれ関連するIFRSの規定とともに解説されているため、IFRS適用のインパクトを知る事例として非常に有用かと思います。


 上記公表資料をもとに、調整項目の内容について整理してみました。


※開始貸借対照表:資産
 非流動資産では、開発費の資産化と有形固定資産(フロート窯)の修理費用の資産計上が大きなインパクトとなっています。多額の研究開発投資や大規模な修繕を伴う設備の保有など、製造業を主とする企業グループには共通する事項だと思います。
 流動資産については比較的インパクトは小さいものとなっていますが、日本基準ではオフバランスとなっている手形の流動化(ファクタリング)や金利スワップ(デリバティブ)のオンバランス化がポイントかと思われます。
 また、これら資産負債項目の調整に伴って生じる繰延税金資産・負債の調整も見逃せないところです。




※開始貸借対照表:負債
 負債項目は、優先株式(およびその未払配当)の負債認識および引当金関係がポイントといったところでしょうか。特に引当金関係は、有給休暇引当金の計上、退職給付引当金における未認識債務の一括認識、修繕引当金の取り崩し(非計上)など、金額的なインパクトとしても非常に大きくなってくる項目かと思われます。




※開始貸借対照表:資本
 資本項目は、上記資産負債項目の調整による影響がほとんどですが、その他のポイントとしては、IFRS第1号(初度適用)において免除規定として認められている、為替換算調整勘定の累積額の利益剰余金への振替といったところかと思います。




※予想損益計算書(2011年3月期)
 損益計算書では、表示の組替や認識箇所の相違といった項目を除いては、やはりのれんの非償却・減損テスト化が大きなインパクトとなっており、大規模なM&Aを行った同社グループにとって特徴的といえます。
 一方、現在IFRSに関する議論の中で収益認識基準が大変な注目の的になっていますが、同社グループでは売上高の調整は非常に軽微なものにとどまっていることも、逆に興味深いところです。企業によって収益認識に関する実務も様々であり、IFRSの収益認識基準自体も見直しの途上であるため一概には言えませんが、現行実務を基準に照らして冷静に分析することが肝要かと思われます。

2011/02/22

MBOブーム再来?

東証社長:自社買収「投資家を愚弄」
(毎日新聞 | 2011年2月22日 20時28分)

 東京証券取引所の斉藤惇社長は22日の定例記者会見で、経営陣の自社買収(MBO)による上場廃止が相次いでいることを受け、「(上場時に)投資家に高値で買ってもらいながら、株価が下落して株主がうるさいからといって上場廃止するのは心情的に不快だ。投資家を愚弄(ぐろう)している」と強い不快感を示した。・・・

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 世界的には証券取引所間の競争が激しくなる中(NY・独証取、合併発表=巨大化で勝ち残り狙う(時事通信 | 2011/02/16-00:52))、日本では資本市場から退出する企業に関する話題に事欠かないといった状況です。
 斉藤社長による上記発言は、自社(東証)を取り巻く競争環境への危機感もあってのことと思われますが、2011年に入ってからMBOによる上場廃止を明らかにした企業だけでも、
  ・イマージュホールディングス発表資料
  ・アートコーポレーション発表資料
  ・カルチュア・コンビニエンス・クラブ発表資料
    (以上、東証に上場)
  ・ワークスアプリケーションズ発表資料
  ・田中亜鉛鍍金発表資料
    (以上、ジャスダックに上場)
など、かつての「ブーム」再燃を思わせる勢いです。

 MBOの動機としてよく挙げられることとして
  "短期的な業績悪化を伴ってでも、長期的視点に立って抜本的な事業再構築を行うため"
・・・というものがあります。この裏には、短期的な業績向上や利益配分をより重視する株主の存在というものが前提としてあるということになりますが、果たして既存の株主がそのような短期的志向ばかりといえるでしょうか。それに、上記のような長期的志向に立った経営が上場企業にできないはずはなく、本来、株主をはじめとするステークホルダーにそのような経営戦略を明らかにするとともに、着実にそれらを実行することによって企業価値(の指標となる株価)を高める努力をすることこそが常道ではないかという気がします・・・。

 MBOでは(最近は銀行からの資金調達で賄う例もあるものの)当該企業の経営陣とともにファンドが買い手として存在するのが一般的ですが、彼らは当然ながら数年内のエグジットを前提に高いリターンを求めるわけであり、その意味では、株主の「物言う度」はむしろ高まるともいえると思います。
また、一般的にファンドが投資に参加するということは、彼らの計画通りに事が運べば高いリターンが見込めるということを意味し、既存の株主にとってみればそのような投資機会が奪われることになるともいえます。株式の買取価格の妥当性が大きな争点になっている事例が多くみられる通り、既存の株主にとってMBOは非常に大きな影響を及ぼす経営上の意思決定であり、経営陣には慎重な判断が求められるものと思います。